説明は「聞く理由」があれば必ず届く——聞き手の心理を理解するという技術
人はみな、話を聞くときに無意識のフィルターを使っています。
あなたがどれだけ丁寧に説明しても、
- 相手に聞く理由がなければ
- 相手が得をしないと思えば
- 相手が損をしそうだと感じれば
説明は、そもそも耳に届きません。
これは、優れたスピーカーが持つ「説明の前に相手の心理を動かす」技術でもあります。
ではどうやって聞き手の耳と心をひらくのか?
今回はその本質を掘り下げます。
■ 説明を聞いてもらえるかどうかは「得か損か」で決まる
話を聞く時、聞き手の頭の中ではこんな計算が行われています。
この話、聞いたら得をするかな?
損はしないかな?
これはまるで、
スーパーで試食を受け取るときに「食べてみたい…でも買わされないかな?」と構える心理に近い。
つまり、
説明を聞いてもらうためには、相手に“聞くメリット“を提示する必要があるわけです。
例えば、
- この説明を聞くと仕事が早くなる
- トラブルを防げる
- 無駄なストレスが減る
- あなたが困らなくて済む
このように「あなたにとって利益があるよ」と明示すると、相手は自然と耳を傾けます。
■ 聞き手は「説明を聞く目的」を無意識に探している
人はいつでも、説明を聞く目的を探しています。
逆に目的がなければ、
- 話が右から左へ流れる
- 考え事をされてしまう
- “聞いたふり”だけされる
説明が伝わらないのは話が下手だからではなく、
目的を示していないから、聞く姿勢が整っていないだけというケースが多いのです。
これは、
地図を渡されても目的地が分からなければ開く気になれない
のと同じ。
説明を始める前に一言、
「この話を聞くと、明日の作業が5分で終わるよ」
と伝えておく。
それだけで相手の“聞くスイッチ”は入ります。
■ 説明は“魅力の影響”を受ける:嫌いな人の話は聞かれない
説明が伝わるかどうかは、実は
論理より、人間的な魅力(好感度)の方が影響する
という残酷な現実があります。
嫌いな人の話が頭に入ってこないのは、誰もが経験しているはずです。
これは、脳が
- 安全な人
- 信頼できる人
- 好きな人
の声を優先的に処理する“生存本能”を持っているためです。
たとえるなら、
同じアドバイスでも、嫌いな先輩に言われたら腹が立つのに、
好きな先輩に言われたら素直に受け入れられる現象
です。
だから説明を伝える前に、
人としての関係性を整える方が先。
ここを誤解すると、どれだけ完璧に説明してもすべて無駄になります。
■ 専門家ほど“説明の罠”に陥る:専門知識は逆効果になる
専門家が説明するときにやりがちな失敗があります。
それは、
専門用語を使って相手を置き去りにしてしまうこと。
プライドもあるでしょうし、
「これくらいは普通の知識だよね?」と思って話してしまうこともあります。
しかし、専門知識というのは時に
相手を“見下されている”気持ちにさせてしまう ことがあります。
例えるなら、
フランス料理のシェフが「これはエミュルションがね…」と専門用語を並べられたら、
素人は「ごめん、わからない…」と萎縮してしまうのと同じ。
専門家こそ、
小学5年生でも理解できるレベルにまで“説明を翻訳する“力が必須。
相手をバカにしているわけではなく、
相手を尊重している姿勢にこそ“説明の美しさ”が宿ります。
■説明は「相手の心理操作」ではなく「相手のおもてなし」
説明がうまい人は、
自分の知識を誇るのではなく、
相手の理解を優先する。
だからこそ、
- 聞く理由を与える
- 得・損のバランスを提示する
- 目的を示す
- 好感を積み重ねる
- 専門知識を“翻訳”して伝える
この5つを押さえることで、説明は驚くほど伝わるようになります。
説明の本質は、
相手のために情報を整える「おもてなしの技術」 です。
あなたがこの視点を持てば、
説明の伝わり方は劇的に変わります。
参考本:わかったと思わせる説明の技術/佐々木 真